通い慣れたボクシングジム。
オレは今日もこのジムで一段、高い場所から様々な練習生がそれぞれトレーニ
ングに励む光景を眺めていた。
それは何時もの見慣れた風景。だけど、オレはその様子をいつになくそわそわ
しながら眺めている。
一日の練習の後、締めのスパーリング。これも毎度のトレーニングメニュー。
でも、今日の相手はヒカルではない。用事があると言って来られなくなったヒ
カルの代役を買って出た海晴。
オレにとってその申し出に意外さを感じたけど、ヒカルはそれを聞いた途端に
難しい顔をしながらこう言った。
「海晴姉はああ見えて六年以上やっている。当然、私よりずっと強いからな」
以前、ヒカルはジムの男は自分相手に真剣にならないと言っていたがその理由
がヒカルの強さだけではないような気がしてきた。
それと同時オレはヒカルの言葉に疑問を感じた。ヒカルが家族を守るために強
くなったと言う話は天使家へ入るときに聞いたけど海晴まで強いなんて…
そんな疑問がオレの顔に出たらしくヒカルはオレの察しの悪さにため息をつき
ながら更に言葉を続けた。
「オマエ、バカだな。海晴姉が私と同じ事を考えてもおかしくないだろう」
オレはその言葉に頭をかきながら苦笑した。
ヒカルの言う通りだ。大人数の姉妹の長女なら妹たちを守りたい。そう思う事
があってもおかしくないだろう。
ただ、それがボクシングという意外な方法だっただけのことだ。オレはそこま
で考えて突然、納得してしまった。
なんだかんだ言って姉妹なんだ、海晴もヒカルも。姿だけではなく考えも似て
るんだからと。
オレが今朝の風景を思い出していると海晴がリングへと上がってきた。
腰まである長い髪を後ろで束ね、スカイブルーのタンクトップにマリンブルー
のトランクス。手には太陽を思わせる紅のグローブ。
朝のウェザーニュースに出演するパステル系のスーツとは違う勇ましい姿。
それは海晴の魅力と相反するものだったけど、いや相反するものだからこそ海
晴の色香を際だたせていた。
先程までの落ち着きの無さを忘れ思わず海晴に魅入っているオレ。そんなオレ
に海晴が声をかけてくる。
「どう?中々、似合うでしょ。私の名前をイメージしてみたの、これ」
その言葉にオレは成程と納得する。晴れた空、蒼い海、真っ赤な太陽。全て海
晴の名を表わすものばかり。
そこまで考えてオレはふと別の考えが浮かぶ。こんな恰好すると言うことは自
分の強さに自信があるんだよなと。
そこでオレは弛んでいた気持ちを引き締めた。他の練習生から強くなったとは
言われるものの未だヒカルには及ばないオレ。
そして、そのヒカルが自分よりもずっと強いという海晴。そんな海晴が相手を
してくれるのだから普段とは違う姿にみとれて浮ついた気持ちではいられない。
オレがそう思ったところで海晴が再び声をかけてきた。
「その顔は戦闘準備OKって感じね。それじゃ、始めましょ」
海晴のその言葉に俺たちは互いにファイティングポーズを取った。
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